マーメイド・セレナーデ
「興味ないわ」



何を言われるかわからないけれど、男の人には興味ない、の。
特に、誤認してしまいそうなこの人にはもっと興味がない。



「だと思った、俺も人数合わせなんだよ。ねえ抜けない?もうだるくてさー帰りたいし」



その言葉に嘘はないのかしら、と思う。

じっと、その眼を見つめた。瞳の奥で何を考えてるのか、覗けるように。



田舎から初めてここに出てきたとき、人は簡単に嘘をついて騙し、騙されを繰り返すことを知って今まで培ってきた価値観がすべて覆されたのだもの。


でも、
鉄平さんの眼に偽りは見られなくていいや、と思った。
あたしも早く帰りたいと思っていたところだから。


こくりと頷けば待ってましたといわんばかりの笑みになって席を立った。

行き成り立ち上がったものだからその場に居た全員の視線を受けることになった。



「じゃ、俺ら帰るから」



あとよろしく、と鉄平さんは数札、机にドンと置いてあたしの手を引いて店を出た。
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