マーメイド・セレナーデ
「お金……」
「いらないよ。お礼と思って」
財布を取り出したあたしの手をそのままバッグに押さえ込んだ。
そして、時計を眺める。
あたしは未だ財布を手に持ってどうしようかと思う。それでももう一度取り出したら、いらないと言われて。
やはり、違うと思った。どうかしている、この人をあいつと重ねるなんて。
あいつならきっと倍返しだからな、忘れねえからな、そんな意地悪を言うに決まっている。
こんな優しい顔で親切をするわけがない。
すると鉄平さんは頭をかいてあたしに向き直った。
「送ってもいいけど、そういうつもりはないから、と言っても聞いてもらえなさそうだし」
「一人で帰れます」
「だろうね、電車?バス?」
「バスです」
「ならバス停までは送るよ」
いらない、と言いたかったが歩き出したその背を見てまたいいや、と思ってしまった。
2人縦に並んで歩くのもおかしいと思ったから、少し小走りで鉄平さんの横に並ぶ。
隣に並んだあたしを見下ろして一瞬だけ、眼を見開いたけれどそのあとはにっこりと笑って歩く速度をあたしに合わせてくれた。
「いらないよ。お礼と思って」
財布を取り出したあたしの手をそのままバッグに押さえ込んだ。
そして、時計を眺める。
あたしは未だ財布を手に持ってどうしようかと思う。それでももう一度取り出したら、いらないと言われて。
やはり、違うと思った。どうかしている、この人をあいつと重ねるなんて。
あいつならきっと倍返しだからな、忘れねえからな、そんな意地悪を言うに決まっている。
こんな優しい顔で親切をするわけがない。
すると鉄平さんは頭をかいてあたしに向き直った。
「送ってもいいけど、そういうつもりはないから、と言っても聞いてもらえなさそうだし」
「一人で帰れます」
「だろうね、電車?バス?」
「バスです」
「ならバス停までは送るよ」
いらない、と言いたかったが歩き出したその背を見てまたいいや、と思ってしまった。
2人縦に並んで歩くのもおかしいと思ったから、少し小走りで鉄平さんの横に並ぶ。
隣に並んだあたしを見下ろして一瞬だけ、眼を見開いたけれどそのあとはにっこりと笑って歩く速度をあたしに合わせてくれた。