マーメイド・セレナーデ
にっこりと笑ったからか、声のこともあってか、あたしは鉄平さんに対する警戒心が解けていた。
バス停までは送るよ、その一言はすんなりとあたしの心に染み渡っていた。

昨日お持ち帰りされちゃった、
ヒカルがよく口にする言葉が耳たこでウンザリしていた。

この男もそうなのかしら、と思ったけど直感的に違うと感じたの。



「真知ちゃんってさ、どっかで見たことがあるんだけど」

「………」

「うわっ、やだなー。そんな警戒心丸出しの眼で見ないでよ。本当にどこかで見たことがあるなって思っただけだから」

「ありきたりなナンパだと思いました」

「だから違うって、……あのバス停?」



不信感を隠そうともせずに鉄平さんを見て、その眼に怯んだのかその視界に捕えることができるバス停を指差した。

鉄平さんは違うと思ったのに。男って結局は自分の思い通りに進ませようとするのだわ。


あのバス停です、とぶっきらぼうに答える。
その声音からあたしの気持ちを汲み取ったのような鉄平さんはあちゃーと一人でおでこに手を当てた。
それはさながら三流漫才のように見えた。
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