マーメイド・セレナーデ
「信用失っちゃったかな?」

「いいえ、信用を失うほど信用は最初からありませんでした」



うそよ。
本当はすこし信用していたわ。そしてあなたが言うように信用がなくなったの。



「本当はバスが来るまで待っててあげようと思ったんだけど」



あたしはバス停に同じように待つOLとサラリーマンを見て、いらないと答えた。

だろうね、と付け加えた鉄平さんは帰るよとひらひらを手を振って駆け足でその場を去っていった。
あたしはため息を一つついて、歩き出す。


本当はこちら側じゃないの、道路の反対側から乗らないと家に帰れないから。
それを鉄平さんに伝える気にはなれなかったから、その場で別れることにした。



バスに乗って、暗闇をただ見つめる。
甘くて弱いお酒しか飲んでいないけれど、なぜか頭が痛い気がした。それは鉄平さんと別れてから気になりだしたと漠然に気付いた。
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