マーメイド・セレナーデ
あのまま離れてしまえばよかった、って思うわ。

あの声に抗えるだけの強さを持ち合わせていれば、と。


陽もまだ昇らぬ夜明けに、悲しそうな顔を浮かべて振り返った鉄平さんにまた涙が溢れてくる。



「ごめんね、真知ちゃん」



扉の向こうに消えてしまった鉄平さんの背を、あたしは情けないことにまた翔太に重ねてしまう。


声を押し殺して、唇を噛み締めて。
堪えることの出来ない胸の痛み。締め付けられるように苦しい。



嫌いになるわ、嫌いになった。

もう、忘れるの。



ごめんなさい。
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