マーメイド・セレナーデ
田舎の路線バスってのは乗車はバス停で降車は路線のどこでもよくてボタンを押せば止まってくれる。
どうせなら家の前が路線ならよかったのに。便利なようで不便だ。

家に向かう曲がり道前で下ろしてもらい、スーツケースに軽く腰掛けた。



「さて、こっから1時間歩くのか」



今は収穫シーズンであたしを迎えに来る暇などない、と早々に親に言われていた。

スーツケースは転がせるけれど舗装されてない道をこのブーツで歩くのは、さすがに。



「久しぶりの帰省ですっかり忘れてたわ」



どうしようか、とどうにもならないことを悩んでいた。



プップー

悩んだのも数分で歩き始めたあたしの背後から迷惑なクラクションがなる。


田舎のくせにクラクション鳴らしてあたしを退かそうなんていい度胸ね。

一人暮らしの街では日常茶飯事だったがこの山間の田園風景にはそぐわない、と思う。


田舎ってのはお隣りさんってのは遠いくせに誰もかしこも顔見知りで、どこのどいつよと勢いよく振り返ってドライバーの顔を覗く。
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