マーメイド・セレナーデ

忘れられない過去

田舎には子供が少ない。
あたしの故郷も例外はなく、少子化の影響は確実に表れていた。


小学校、中学校と卒業と同時に閉校となり、母校というものは建物だけになっている。

少し離れた高校に入学すると人の多さにびっくりした。
だって学年のクラスが3つも4つもあるのよ。
他学年と一緒の教室で授業なんてここでは有り得ないことだった。


初めて、母校が閉校にならないことに感激してあたしは高校の卒業式は恥ずかしいくらい大泣きだった。

帰ってくれば学生時代を思い出す、現役生がこれからも在籍している。
それを思うだけで涙が溢れた。



「翔太、どこに行ったか知らない?」



両手に荷物を抱えながらいっぱい写真を撮って、撮られて。

ふと気付いたときにはいつだって遠くからあたしを見つめていたやさしい眼がなかった。
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