マーメイド・セレナーデ
コンビニのビニール袋を振り回し、上機嫌なのが自分でもわかる。


バスに乗って、見慣れた田舎道を窓から眺める。
バス停で居るかもしれないと思ったのに、バス停にも翔太は居なかった。


あたしが着いたときにはバスは20分前に出てた。
きっと翔太はそのバスに、乗ったはずだった。

それ以前であれば1時間半くらい前。
そのバスに、乗ったのであれば卒業式が終わって教室で解散したらすぐに帰ったことになる。

まさか、翔太がすぐに帰ったとは思いたくはなかった。



いつものところでボタンを押して、降りて、バスを見送ってから歩を進めた。

歩くスピードもまた速くなる。
翔太、に近付いてるから。

翔太の家に着けば勝手に上がるのは当たり前で。



「おじゃましまーす、翔太ぁ~?」



靴を確かめれば、見慣れた踵の踏まれたスニーカーが放りっぱなし。

上機嫌だったけど、やっぱりなんで先に帰ったんだろうと口を尖らす。
階段をあがりながらぶつぶつと文句垂れて、少しいつもより大きな音を立てて扉を開け放つ。
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