マーメイド・セレナーデ
「あー、そんままにしとけ」

「でも、」

「捨てるから気にすんな」



振り向けばさっきまでスーツを来て仕事モードだったのがラフな格好になっていた。
Tシャツにスウェット。
完璧な柏木翔太とは程遠い姿になぜか胸が締め付けられて泣きそうなくらい苦しくなった。


腰を捻り振り返った状態から戻り、奴に背を向けてぺたりと座り込んだあたしの後ろに立った翔太は前屈みにあたしを覗き込んだ。



「なにやってんだ、」

「べつに、何もないわ」



涙ぐんだ眼を見られないように背を向けたのに、覗き込まれちゃ堪らないと、また顔を横に向けた。



「そうかよ、」



また、あたしに興味をなくしたのかコップをシンクに持って行った。
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