御曹司様はあなたをずっと見ていました。
「進一郎さん。どうしてここが分ったの?」
進一郎さんは私を一条君から引き離すと、片腕で自分の方へ引き寄せた。
ちょうど肩を抱かれた形になっている。
「梨沙、それよりも、この状況はどうしたものかな?なぜ、一条に口説かれているのだ。」
すると、一条君は怒りの表情で顔を赤くすると、いきなり大きな声をだした。
「あなたは梨沙ちゃんだけを愛しているのですか?これからもずっと梨沙ちゃんだけを愛して行けるのですか?…華やかな世界にいるあなたは信用できない。」
進一郎さんは、ふるふると震えて立ち上がっている一条君と、真っすぐ向かい合うように立った。
そして、静かな声で話し始めた。
「僕が話しても信じてはもらえないかも知れないが、僕は梨沙を愛している。今もこれからもずっと梨沙だけを愛して行くつもりだ。」
「梨沙ちゃんはあなたと住む世界が違うんだ。…きっと梨沙ちゃんは苦労するはずだ。」
「梨沙は僕と同じ世界にいる。できる限り僕は梨沙を守る。…違う世界に居るのは、すでに君の方じゃないのか?」
一条君は進一郎さんの言葉に動揺している。
さらに、一条君は私に問いかけるように声を上げた。
「梨沙ちゃん。…俺は入社した時から君を見ていたんだ。俺と幸せになろう…こっちへおいで。」
私は庇ってくれようとする進一郎さんの前に自ら一歩進み出た。
そして一条くんの顔をしっかり見ながら言葉を出した。
「一条君。ありがとう…心配してくれているんだよね。私も最初は進一郎さんと自分では釣り合わないと思ったよ。…でもね、努力しようと思ったの。いつか進一郎さんと並んでも恥ずかしくない自分になりたいって…私は進一郎さんと幸せになりたい。一緒に生きていきたいの。」
一条君は膝から崩れ落ちるように、地面に膝を着いた。
「なんだよ…そういう事か…俺の入り込む余地は無いんだな。」
進一郎さんは一条君と同じ高さに膝を着いた。
そして一条君の肩に手を置いた。
「さっきは言い過ぎて悪かった。梨沙は絶対に悲しませないように大切にする。」
一条君は下を向いたまま、顔を見せずに進一郎さんに向かって声を出す。
「約束ですからね…もしも…もしも…梨沙を泣かせるような事が有れば…俺は許さない。」
「あぁ。肝に銘じておくよ。」