御曹司様はあなたをずっと見ていました。
遠くで誰かの声が聞こえるような気がする。
私はゆっくりと目を開けた。
すると、周りは見慣れない景色だ。
真っ白な天井に、白い壁、ここはどこなのだろうか。
「梨沙、梨沙、大丈夫か?」
進一郎さんの声がする方を向いてみる。
すると、そこには心配そうな顔の進一郎さんがいた。
私の手をしっかりと握ってくれている。
「あの…私…どうしてここにいるの?」
「梨沙、気が付いたか…よかった。覚えていないのか?梨沙は披露宴の後、控室に行く途中で倒れたんだ。そこから救急車で運ばれたんだ。」
進一郎さんの話を聞いて、私は慌てて起き上がろうとした。
「梨沙、まだダメだ。そのまま寝ていろ。」
横には裕子の顔も見えた。
裕子も心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「梨沙…心配したよ…いきなり倒れるんだもん。」
私達が話をしていると、病室のドアを叩く音が聞こえた。
そして、ゆっくりとドアを開けてドクターが入って来たのだ。
「高宮梨沙さん。気が付きましたか?」
ドクターは私の顔を見ると、手首で脈を計り始めた。
進一郎さんは、我慢できないという表情でドクターに話し掛けた。
「先生、梨沙は大丈夫なのですか?」
すると、ドクターは私と進一郎さんの顔を交互に見て微笑んだのだ。
「心配はいりませんよ…お父さん、お母さん。」
「…はっ?」
進一郎さんはドクターの言っている意味が分からず、怪訝な表情をした。
すると、横で聞いていた裕子が大きな声を上げた。
「高宮さん、梨沙!おめでとう!」
裕子の声を聞いて進一郎さんはハッとしたようだ。
私も自分では全く思ってもみないことで、私自身も驚いている。
「先生!本当なのですか…梨沙は…妻は…子供がお腹に居るのですか?」
ドクターは目を細めて笑顔で頷いたのだ。
しかし、進一郎さんはそれ以降何も言わず黙ってしまった。
不安に思った私は進一郎さんへ声を掛けた。
「あの…進一郎さん…この子を産んでも良いですか?」
次の瞬間、進一郎さんは私の手を強い力で握りしめた。
「梨沙…僕は嬉しすぎて頭がパニックなんだ。声もでないほど…嬉しいよ。梨沙、僕たちの子供だよ…産んで良いかなんて聞かなくても答えは決まっているだろ。」
「進一郎さん、ありがとう。」
「梨沙、お礼を言うのは俺のほうだよ。」
進一郎さんの目には涙が今にも溢れそうになっていた。