御曹司様はあなたをずっと見ていました。
数日後、由香里は荷物をまとめて皆に挨拶をした。
「皆さん、大変お世話になりました。…これからは心を入れ替えて、一からやり直します。ありがとうございました。」
由香里は深くその場で頭を下げたのだった。
私が拍手をしたのをきっかけに、皆も由香里に拍手を送った。
由香里は下を向いて肩を震わせた。
少しして、前を向いた由香里は涙を流しているが、真っすぐ前を向く瞳にはどこかホッとしているような柔らかい表情が浮かんでいるように思えた。
あの事件の後、すぐに高宮専務は関連会社で薬品販売を行う会社に由香里を紹介した。
すると由香里はとても感謝をして、すぐにその会社で働きたいと言ってきたらしい。
由香里には新しい職場で頑張ってもらいたいと心から思うのだった。
一連の事件は解決した。
もちろん、神谷さんはもういない。
神谷さんが高宮専務の変装だったと知り、多くの女性が悲鳴を上げた。
『モサ男』なんて言ったことに酷く後悔しているようだ。
少し可哀そうではあるが、自業自得でもある。
後になって分かったことがある。
なぜ高宮専務がデータセンターに潜入していたかと言うと、製薬会社がうちのデータを狙っていると、病院内から内部告発があったそうだ。
どうやら、高宮専務の学生時代の友人があの病院に勤めているらしい。
そこで、狙われるであろうデータセンターに、高宮専務が潜入して探っていたという事だった。
そして、データを盗んだ病院とは、偶然にも私のおばあちゃんが入院していた病院だったのだ。
そのため、おばあちゃんのお見舞いに行った日に、高宮専務と赤沢さんが病院にいたのだろう。
全ての出来事が不思議な縁で繋がっていたようだ。