御曹司様はあなたをずっと見ていました。
結婚なんて恐れ多い話だ
「…なんか、君には間違った形で伝わったようだね。」
「ご…ごめんなさい…身の程知らずで…冗談だったのですよね。」
私は勘違いしていた恥ずかしさで顔から火が吹きそうになる。
すると、さらに高宮専務は眉間に皺を寄せて怒った表情になったように見える。
(…どうしよう…嫌な気持ちにさせてしまったみたい…)
「なぜ、謝るの。君に怒っていないよ。…僕が怒っているのは自分自身だ。」
「…え?」
「僕は、結婚の話をしたが…偽装結婚とは言っていない。…そう思わせてしまったのは僕の言い方が悪かったのだね…ごめん、許してくれ。」
高宮専務は私に頭を下げているが、全く意味が分からない。
高宮専務と係ると、意味が分からないことだらけだ。
「…あの…私には意味がよく理解できないのですが…」
すると、高宮専務は真面目な表情で私をまっすぐ見たのだ。
「僕は、偽装なんかではなく、君と結婚したいと思ったんだよ…確かに付き合ってもいないのに、可笑しな話だけど、偽装で夫婦になるつもりはないよ。」
「…でもなぜ私が…私なんかでは…高宮専務にはつり合わないですよね…」
高宮専務は天井を向いて大きく息を吐いた。
「君と言う女性は…、謙虚と言うか…自分が分かっていないというか…困った子だね。」
どうしてよいか分からず俯く私の頭に優しく専務は手を置いた。
そして、少しの沈黙のあと、優しく微笑んだのだ。
「ねぇ…こんなミーティングルームで言いたくないけど…僕と結婚を前提に付き合ってもらえますか?」
「…っえ?」
驚いた私は、恐るおそる顔を上げた。
何かとんでもない聞き間違えだろうか。
そして、高宮専務の顔を見ると、少し照れているような表情で、私を見ている。
これは夢ではなく、現実なのだろうか。
「…わ…わ…私なんかで…本当に…良いのですか…」
「僕はずっと君にはそばにいて欲しいと思ったんだ。」
「…本当によろしければですが…あの…よ…よ…よろしくお願い…します。」
すると、専務は勢いよく立ち上がった。
「よかったぁ…これで安心したよ。今日の就業時間後にまた話をしよう…ごめん、そろそろ行かないと、赤沢に大目玉食らっちゃうから…行くね。じゃあまた、後でね。」
高宮専務はひらひらと手を振って部屋から出て行った。
ひとり残されたミーティングルーム。
驚いて腰が抜けたように、そのまま座っていた。
(…今…何が起こったの?…夢じゃないよね…)