御曹司様はあなたをずっと見ていました。
18時を少し過ぎ、終業時刻となった時、夢ではなく現実なのだと実感した。
それは3分ほど前のこと、私のいるデータセンターへ秘書の赤沢さんが入って来たのだ。
とても目立つ存在の彼に皆が振り向いている。
すると、赤沢さんは真っすぐに私の所へ向かってきたのだ。
驚いている私に、赤沢さんは微笑んだ。
「そんなに驚いた顔、なさらないでください。…今日は何時ころに仕事は終わりますか?」
「…は…は…はい。もう…もう間もなく…終わります!」
緊張のあまり、変な応え方になってしまった私をみて、赤沢さんはクスッと小さく笑った。
「あなたは…本当に可愛らしい方ですね…専務のお気持ちが分かります。」
赤沢さんに可愛いなんて言われて、急に顔が沸騰したように熱くなる。
「それでは、佐々木さん。お帰りの支度が終わりましたら、地下の駐車場までお越しください。」
赤沢さんは話し終わると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
驚きで頭の処理が追い付かない。
そのまま固まってしまった私の肩を、細谷主任がポンと叩いた。
「佐々木さん、固まっていないで、早くおかえり。」
細谷主任に声を掛けられ、我に返った。
「は…はい。ありがとうございます。」