御曹司様はあなたをずっと見ていました。
どうやら細谷主任には赤沢さんと私の話が聞こえていたようだ。
高宮専務と赤沢さん、細谷主任は同じ歳の同期入社だ。
どこまで知っているかは分からないが、私が帰りやすいように細谷主任は気遣ってくれたようだ。
周りの女性社員たちはヒソヒソとこちらを見ながら何か言っている。
しかし、ここはあえて気が付かない振りをして、素早くこの場を去ることにした。
駐車場に到着すると、黒い高級車の前に赤沢さんが立っていた。
赤沢さんは私に気が付くと、手を高く上げた。
私は思わずその場でお辞儀をした。
「お待たせして申し訳ございません。」
私が赤沢さんに声を掛けると、車の後部座席のドアが開いた。
車から降りて立ち上がったのは、高宮専務だ。
「佐々木さん、来てくれてありがとう。よければこれから、ご飯でも食べながら話をしないか?」
私達が車の後部座席に乗り込むと、赤沢さんは車の外で一礼をした。
赤沢さんは一緒に行かないらしい。
運転手さんに高宮専務が行き先を伝える。
すると、運転手さんは高宮専務と私に軽く会釈をして、車をゆっくり前に進めた。
そして、赤沢さんが見守る中、車は出発したのだった。