御曹司様はあなたをずっと見ていました。
細い路地を曲がると、真正面には聳え立つように豪壮な洋館が現れた。
周りにも大きな邸宅はあるが、桁違いに圧倒する存在感を放っている。
大きな門は自動で観音開きに開くと、庭を突き抜けるように道がある。
門を入ってから道があるとは、その広さに驚かされる。
道の周りはイングリッシュガーデンというのだろうか、沢山の木々と花々がさわさわと風に揺れて音を立てている。
色とりどりの花が、緑の葉に引き立てられてとても美しい。
石の階段を三段ほど登ると大きな玄関がある。
そこには家政婦の方だろうか、40代くらいの女性が立っていた。
「進一郎様、お帰りなさいませ。…旦那様と奥様がお待ちになっています。」
その女性に案内されて、家の中にはいると、その天井の高さや玄関の広さに圧倒される。
玄関に家が一軒建ちそうだ。
私達は大きな応接間へと案内された。
応接間は白と茶で統一されていて、落ち着いているが、どこか洗練された感じがする。
いかにもという、お金持ちが好きそうな置物などが無いところが、品の良さを感じるのかも知れない。
その女性は、私達にソファーに掛けて待つよう伝えると、一礼をして部屋を出た。
緊張で体に力が入り、足がフルフルと震えている。
隠していたつもりだが、進一郎さんに気づかれてしまったようだ。
突然、冷たくなった私の手を握った。
「梨沙、大丈夫だよ…僕を信じて。」
進一郎さんへ笑顔で返そうと思うのだが、表情が強張り笑顔が上手く作れない。
すると、ドアを “コンコンコン” とノックする音が聞こえて、ゆっくりとドアが開けられた。
入って来たのは、進一郎さんのご両親、そしてもう一人若い女性が入って来たのだ。
進一郎さんは、その若い女性に向かって厳しい表情を向けた。
「京香(きょうか)、なぜお前がここにいるんだ。」
京香と呼ばれたその女性は、進一郎さんに微笑んだ。
「あらぁ~、そんな冷たい言い方しないで欲しいわ…あなたの婚約者じゃない。」
その言葉を聞いて、私は息が止まった。
進一郎さんの婚約者とはどういう事なのだろうか。
進一郎さんは、両親に向かって声を荒らげた。
「これは、どういう事ですか!京香との婚約は、はっきりとお断りしたはずです。」
すると、進一郎さんの母親が、無表情で話し始めたのだ。
「結婚はあなたの自由にはならないわ。あなたは高宮家の跡取りですから、それなりの妻を迎えてもらいます。京香さんは白鳥財閥のお嬢様です。高宮家は、白鳥財閥と手を結べば、さらに安定した経営が望めるのよ。白鳥家も、高宮との繋がりを望んでいるみたいだし、京香さんもあなたを気に入っているそうよ…こんなにも良い縁組はないわよねぇ。」
進一郎さんは、珍しく声を荒げて厳しい表情をした。
「僕は、あなたの言いなりにはならない…それに結婚は、ここにいる梨沙とする。」