御曹司様はあなたをずっと見ていました。
「こちらは今日からこの部署に配属された 神谷 進一(かみや しんいち)君だ。僕と同じ歳の29歳。彼は入社以来、うちの子会社に出向していて、海外にずっといたんだ。だから、まだこの会社のこともあまり分かっていない。そこで、二人に頼みたいんだが…彼にいろいろと会社や仕事を教えてやってくれないか。」
すると、由香里は神谷を見て、あからさまに嫌な顔をする。
そして、細谷主任に向かって食ってかかるように声を上げた。
「細谷主任、なぜ私達なのですか?」
由香里の態度に、細谷主任は少し困った表情を浮かべた。
「神谷君は君たちのチームに配属される予定なんだ。僕も出来る限り手伝うから、仕事の細かいところは君たちにお願いしたいんだ。頼んだぞ。」
「はい。」
細谷主任に返事をしたのは、私だけだった。
由香里は横を向いて不機嫌そうにしている。
細谷主任は要件を伝え終えると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
由香里にこれ以上何か言われる前に立ち去ったようにも感じる。
しかしそれは、責任感の強い細谷主任にしては、少し違和感を感じる行動だった。
ただ、その時はまだ私も細谷主任の違和感ある行動に対して、深く考えもしなかった。
すると、由香里も無言で立ち上がり、そのままあたりまえのように部屋を出て行ってしまった。
会議室に残されたのは、私と神谷さんだ。