御曹司様はあなたをずっと見ていました。
翌日会社に出社すると、細谷主任が慌てた表情で近づいて来た。
「佐々木さん、朝から悪いがすぐに社長室に来てくれと連絡が来ているんだ…何かあったのかい?…心配だから俺も一緒にいこうか。」
「いいえ、…一人で大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません。」
社長室への呼び出しは、恐らく昨日の事だろう。
社長にとって私はとても邪魔な存在だ。何を言われるのかとても不安だ。
私は大きく息を吸い込んでゆっくりと吐いた。
(…私がしっかりしないと、進一郎さんに迷惑がかかるんだ。…)
震える手にぐっと力を入れて社長室のドアをノックする。
「失礼いたします。佐々木梨沙です。」
ドアはカチャンと音を立てて開けられた。
中からは社長秘書の男性が出て来た。
「佐々木さん、お待ちしていました。…どうぞ中にお入りください。」
部屋の中に入ると、中央の大きなデスクには社長が座っていた。
そして横に置いてある応接には、昨日お会いした白鳥京香が座っていたのだ。
京香は私に気が付くと立ち上がり、口角を上げた。
「あらぁ…佐々木さん、昨日お会いしたばかりよね。…あらためて自己紹介するわ、私は進一郎さんの婚約者で、白鳥京香です。今日はあなたに会いたくて、おじ様にお願いして呼んでもらったのよ…忙しいのにごめんなさいね。」
「いえ…大丈夫です。」
京香は社長を“おじ様”と呼んでいる。恐らく小さい頃からの知り合いなのだろう。
「ねぇ、おじ様…今の時代は簡単に人をクビには出来ないのよね…でも自己都合の退職なら問題ないでしょう?」
「…まあ、そうだが。」
社長は無表情で腕を組んで目を閉じている。
何を考えているのか分からない。
「じゃあ、佐々木さん。単刀直入に言うわ、会社を自分から辞めて欲しいのよ。」
「な…今、なんて…言いました…」
すると、京香は冷たい目で私を睨んだ。
「分からないの?会社を自分から辞めろと言っているのよ。」