御曹司様はあなたをずっと見ていました。
京香からの、会社を辞めろという言葉に息が詰まった。
「な…なぜそんな…私が会社を辞めなくてはならないのですか。」
すると、今まで目を閉じて聞いていた社長が、ゆっくりと目を開けて話を始めた。
「今日の朝、進一郎は自分から会社を辞めると、私に申し出て来たのだ。…進一郎は会社にとって大きな存在だ…辞められては困る。会社にとっても大きな損害だ…すべて君のせいだよ佐々木さん。」
「高宮専務が…そんな…」
「君がもし、進一郎を大切に思うのなら、会社を辞めさせずに、君が去るべきだと思わないのか。」
(…進一郎さんに会社を辞めさせてはいけない…やはり私がいなくなれば…それですむのなら…)
「…わかりました。…これから…辞表を…書きます。」
京香は私の言葉を聞いて、嬉しそうに笑顔をみせた。
「おじ様、よかったですね…これで進一郎さんが会社を辞める理由がなくなりますね。」
その時だった、社長室のドアを誰かが大きな音で叩いたのだ。
そして次の瞬間、勢いよく扉は開けられた。
「社長、佐々木さんをなぜ呼び出したのですか?」
入って来たのは進一郎さんだった。
「進一郎、…突然部屋に入って来るなり、不躾に何を言っているのだ。」
進一郎さんは、横に立っていた私の手を引いて、自分に引き寄せた。
「佐々木さんに何を仰ったのでしょうか?…だいたい想像は付きますけど…」
すると、社長は立ち上がり進一郎さんに厳しい目を向けた。
「今、佐々木さんは会社を辞めると言ったよ。…進一郎、お前が辞める必要は無い。もう一度考え直すんだな。ここに居る京香さんと結婚するのが、お前にとって一番良い選択なんだ。」
進一郎さんは社長に向かって大きく首を振った。
「佐々木さんが会社を辞めるのなら丁度良かった。僕も一緒にこの会社を辞めさせて頂きます。…何度言われても、僕は京香と結婚は出来ない。」