御曹司様はあなたをずっと見ていました。
一週間後、私は会社を退職した。
同僚で友人の裕子には、私の退職の理由や、進一郎さんとの関係を話していたのだ。
裕子は涙を流しながらも、“応援している”と私を励ましてくれたのだ。
赤沢さんと細谷主任も今週中には退職が決まっている。
当然、社内は大騒ぎになっていた。
高宮専務、赤沢さん、細谷主任はルックスだけでなく、能力の高さでも一目置かれている存在なのだ。
女性たちの悲鳴はもちろん、会社にとってもこれはかなりの損失になる。
社長や役員は、それぞれを引き留めようと頑張ったようではあるが、3人の気持ちは固く、引き留めることが出来なかったのだ。
一方、進一郎さんの会社は、もともと手掛けていた健康食品や、美容関連の商品で、早速注目され始めていた。
イケメン社長も話題の一つになり、進一郎さんは以前に嫌っていたマスコミの取材にも積極的に出ることにしたのだ。
使える手は何でも使うのが進一郎さんの凄い所でもある。
SNSなどにも力を入れて、若者層の獲得も順調だった。
若者はすぐに反応して、健康食品のプリンスなんて呼ばれ始めている。
綿密に計画された販売方法は、流石としか言いようがない。
私はというと、もともと得意としていたデータ分析や顧客管理に忙しい毎日だった。
「梨沙、君が手伝ってくれなかったら、大変な事になっていたかも知れないな…助かるよ、ありがとう。」
改まって、礼を言われるとなんだか恥ずかしくなる。
「私は、進一郎さんのお役に立てているのなら嬉しいです。…お荷物にはなりたくなかったので。」
「でも、あんまり頑張り過ぎないで欲しいな…毎日帰りも遅いだろ。」
「全く問題ありませんよ。私はけっこうタフなんです。これくらい問題ないですよ。」
すると、急に進一郎さんが近づき、真面目な顔をした。
「ねぇ、梨沙。…もし君が良かったらなんだけど…ここに一緒に住まないか?」
進一郎さんの突然の申し出に驚いた。
「い…一緒になんて…恐れ多くて…あの…」
「無理にとは言わない…でも結婚したら一緒に住むだろ?…もちろん梨沙の思い出の家は、そのままにするつもりだ…この上の階にも、いくつか部屋が余っているし、会社も順調だから、のちには事務所も大きくする予定なんだ。」
確かにここ数日は、帰宅時間が遅くなり、日付を超えた頃やっと家に着くようだ。
ここに住んでいれば通勤時間もなく、効率よく仕事ができるのは確かだ。
「あの…ここに…本当に住んでも良いのですか。確かにそれは…助かるというか…その…。」
私の言葉を聞いた進一郎さんは、嬉しそうに笑顔になり、いきなり私を抱きしめたのだ。
「梨沙…ありがとう…一緒に暮らせるなんて夢のようだな。」
私は進一郎さんに抱きしめられたことで、心臓が爆発しそうだった。