御曹司様はあなたをずっと見ていました。
「…あ…あの…私は佐々木梨沙と言います。これから同じチームのようですので、何でも聞いてくださいね。」
「………」
私の言葉を聞いて神谷さんは声も出さずに頷くだけだった。
(…この人、無口なのかな…)
「そ…それでは…さっそく社内を説明しますので、一緒に来ていただけますか?」
すると、神谷さんはゆっくりと立ち上がったのだ。
驚いたのは、座っていても身長は高く見えていたけれど、立ち上がるととても長身だった。
180cm以上はありそうだ。
「神谷さん、とても背が高いのですね…私はチビだから羨ましいです。」
私の身長は155㎝しかないので、神谷さんと並ぶと親子のようだ。
その時、神谷さんが小さな声をボソッと出したのだ。
「…女の子は小さくても可愛い。」
それまで何も言わなかった神谷さんに可愛いなんて言われて、なんだか急に恥ずかしくもなった。
思わず顔が熱くなる。
「あ…あ…ありがとう…ございます。では行きましょうか。」
私の後に続いて神谷さんが歩いて来る。
ヨレヨレのスーツで少し俯いて歩く神谷さんを見て、皆がヒソヒソと何か言っているのを感じる。
中にはあからさまに嫌な顔をして、聞こえるように声を出す女性達もいた。
「なにあれ…気持ち悪い…モサ男って感じだよね。」
「近寄らないで欲しいわ…臭くなりそう…暗さがうつりそうね…ふふふっ」
私は慌てて神谷さんに振り返る。
「神谷さん…あの…ごめんなさい…あの…。」
すると、神谷さんはフッと小さな声で笑ったのだ。
「なぜ、君が謝るのですか…僕は気にしないから、大丈夫ですよ。」
神谷さんは大丈夫と言っているが、なんだか気まずい。
しかしなぜ、いじめのような事を言うのだろうと、少し腹立たしくもあった。