御曹司様はあなたをずっと見ていました。
しかし、なぜ京香さんは進一郎さんをナイフで刺そうとしたのだろうか。
進一郎さんを想っているなら、考えられない行動だ。
「あの…進一郎さん、あの後…京香さんはどうされたのですか?」
「あぁ…京香は梨沙にナイフを刺してしまってことに驚き、逃げ出そうとしたが、父親に押さえられたんだ。…京香は、甘やかされて育ったお嬢様だ。だから今まで、自分の思い通りにならない事など無かっただろう…それで思い通りにならない僕に苛立っていたようだ。…子供じみた考えだが、僕の気を引きたくて刺そうとしたらしい。」
「気を引くために?」
「そうだよ…小さい頃、好きな女の子の気を引きたくて、虐めてしまう男の子がよくいるんだ…恐らく京香はそんな心理だったんだろう…でもあの後、梨沙が倒れたのを見て、かなり動揺して、反省したみたいだよ。」
進一郎さんの説明を聞いて、なんとなくではあるが京香さんの気持ちが分かった気がする。
絶対的なお嬢様は、小さい頃から権力のようなものが身についていて、逆らう人を知らないのかも知れない。
なんだか少し可哀そうな気持ちにもなる。
「あの…会社の方は…どうなったのですか?」
「もう大丈夫だ…京香のしてしまった事に父親である京一郎は、深く謝罪してきた。そして会社に対しての圧力も止めて、逆に支援する事まで約束してくれたんだ。…もちろん、僕との婚約話も白紙だ。」
「…よかったぁ…よかったですね。」
進一郎さんは私の手をもう一度強く握った。
「…今回の怪我は僕のせいで申し訳ないと思っている。でも、梨沙の勇気が全てを解決してくれたようだ…ありがとう…梨沙。僕には梨沙が必要なんだ。本当に無事でよかった。」
進一郎さんの黒く透き通った瞳に私が映っている。
その瞳からは、ゆっくりと涙の雫が頬に流れていた。
「…進一郎さん、心配をお掛けして申し訳ございません。」
すると、瞳に映る私が、ゆっくりと近づいて来る。
進一郎さんは私の額に自分の額を重ねた。
「梨沙…僕は君を愛している。」
次の瞬間、唇には微かに柔らかい感触がした。
大切に触れるだけの優しい口づけだ。
進一郎さんの温もりから、優しさが伝わって来る。