御曹司様はあなたをずっと見ていました。
少しして進一郎さんが戻って来た。
表情は疲れているが、どこかホッとしているようにも見える。
赤沢さんは、待ち切れないとばかり口を開いた。
「女性は…やはり白鳥京香だったのか?」
「…あぁ、京香だったよ。…あれでも、彼女なりに反省して心配して来ていたらしい。…あいつは素直じゃないけど、心底悪者でもないんだ。」
私は急いで起き上がろうとした。
「…京香さんは…帰っちゃったのですか?」
しかし、手術したばかりの傷が痛んで、体を動かすのも難しい。
その時、病室のドアが開けられた。
そして、怯えたような震える小さな声が、私の名前を呼んだ。
「…佐々木さん。」
入り口に目を向けると、京香さんが立っていたのだ。
私がなんとか起き上がろうと動いたとき、京香さんが近づいて来た。
「…佐々木さん…本当に…私…あの…。」
「京香さん、…私は大丈夫です。けっこう丈夫なんですよ。」
すると、進一郎さんが少し厳しい口調で話し出す。
「京香、さっき言っただろ…悪いと思っているなら、自分の言葉で謝れと…なっ!」
「わ…わかっているわ…あの…だから…ごめん…な…さ…い。」
京花さんは、おずおずとしながら、頭を下げたのだ。
進一郎さんは、京香の頭をポンと叩いた。
「まぁ…充分とは言えないが…言わないよりは良い。」
恐らく京香さんは、今まで自分から謝ることは無かったのだと思う。
それを考えれば、だいぶ頑張ってくれたのだろう。
京香さんはそれ以上何も話さず、すぐに踵を返して部屋を速足で出て行ってしまった。
赤沢さんと細谷さんは、京香さんの態度にまだ納得はしていないようだが、進一郎さんはどこか穏やかな表情にみえたのだ。
「進一郎さん、京香さんを許してあげてください。…進一郎さんが大好きだったのですよね…表現は間違えてしまいましたが、女心を分かってあげてください。」
すると、進一郎さんは息を大きく吐いて天井を見た。
「まったく…このお人好しが…でも…梨沙ありがとう。」
赤沢さんと細谷さんは、少しの間沈黙していたが、諦めたように頷いた。
「そうだな…佐々木さんが許すというなら、俺達もそうするしかないよな。」