御曹司様はあなたをずっと見ていました。
それから10日後。
傷の治りも順調で、思っていたよりも早く退院することができた。
病院の玄関を出ると、そこには進一郎さんが迎えに来てくれていた。
進一郎さんは、私にピンクのガーベラの花束を手渡した。
「梨沙、退院おめでとう。」
「…ありがとうございます。」
すると、私の横を小さな女の子が、お母さんと手を繋いで病院に入って来たのだ。
「いやだ…病院にお泊りしたくないの…」
女の子はお母さんに駄々をこねている。
病院にお泊りとは入院の事だろう。
私は進一郎さんに貰った花束から一本のガーベラを抜き取り、女の子の前に差し出した。
「…はい。このお花あげる…このお花はガーベラと言ってね、希望とか元気になる花言葉があるの…だから、これでお泊りは少なくなるよ…きっとね。」
女の子は目にいっぱいの涙を溜めて、花を受け取った。
「…お姉ちゃん…本当?…すぐにお家に帰れる?」
「うん…きっとね。」
女の子のお母さんは、私達に深くお辞儀をしてお礼を口にした。
そして女の子に微笑んだ。
「マユ…よかったね…お姉ちゃんの魔法できっと早くお家に帰れるよ…お姉ちゃんに、ありがとうを言おうね。」
女の子は大きく頷くと私を真っすぐ見た。
「おねえちゃん…ありがとう…マユ早くお家に帰れるね。」
私が女の子に手をひらひらと振ると、女の子は嬉しそうに手を振り返してくれた。
「ばいばーい。」
女の子が去って行くと、進一郎さんは私の頭に優しく手を置いた。
「梨沙は優しいな…君と一緒に居ると、僕も優しい気持ちになれる気がする。」