御曹司様はあなたをずっと見ていました。

データセンターのセキュリティーは厳しい。
社員証になっているカードキーと指紋認証が必要だ。

「神谷さん、恐らくまだ指紋認証は登録されていないと思いますので、今日はセキュリティー解除の仕方だけ覚えてくださいね。」

神谷さんにやり方だけでも伝えようと、自分でやってみてもらうことにした。
すると、カシャンと音を立ててセキュリティーは解除されたのだった。
驚いたことに、神谷さんの指紋認証は登録されていたのだった。

「えっ…早いですね…もう登録されているなんて驚きました。」

私が驚いた顔をすると、なぜか神谷さんは自分の口元に人差し指を当てた。
これは、内緒だよと言っている動作に見える。

「たまたま早く登録してくれたのでしょう…でも怪しまれないように、他の人には言わないでください。」

「…は…はい。」

私は神谷さんが言っている意味が良く分からなかったが、そのまま言われた通りにすることにした。

由香里はその後もずっと神谷さんを避けているため、仕事の殆どすべてを私が教えることとなった。
しかし、驚くのは神谷さんの能力の高さだ。
一度説明すれば、全てを理解してしまうのだ。
頭も良く、仕事の手際もとても良いのだ。
そのため、教えることが負担になるどころか、仕事が捗ってしまうほどだったのだ。

「神谷さん、以前に同じようなお仕事をされていたのですか?とても仕事が早くて、私が助けられてしまうほどです。ありがとうございます。」

「…はい。似たような仕事をしていたからです。」

しかし、神谷さんの無口は変わらない。


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