御曹司様はあなたをずっと見ていました。
翌日の夜、久しぶりに進一郎さんと二人きりの夜だ。
真紀ちゃんは、あれから渋々ではあるが、実家に帰ることにしたようだ。
赤沢さんの告白は、真紀ちゃんにとって突然過ぎて気持ちが追い付かないと言ったところだろう。
ゆっくりと考えて欲しいと赤沢さんも伝えていた。
思えば、いろいろな事件があり進一郎さんとゆっくりできるのは本当に久しぶりだ。
なんだか心臓がうるさく鳴っている。
私は作り置きしてあるビーフシチューを冷凍庫から取り出して温める準備をしていた。
「梨沙、まだ傷も治ったばかりで無理をしないでくれ。夕食は僕が用意するよ。」
進一郎さんは私の持っていたシチューを取り上げると、椅子に座らせるように背中を押した。
何をしても手際のよい進一郎さんだ。
あっという間にテーブルにはシチューやサラダ、それに合わせたフランスパンも添えられた。
このフランスパンは、先日に裕子が凍らせ方を教えてくれたフランスパンだ。
トースターやオーブンで温めると焼き立てのように美味しいのだ。
そして進一郎さんは赤ワインも用意してテーブルに置いた。
「梨沙、今日は梨沙の快気祝いだね。…梨沙、本当に僕を庇って怪我をさせてしまって申し訳ないと思っている。このとおりだ。」
進一郎さんが目の前で頭を下げたのだ。
「進一郎さん!止めてください。私は進一郎さんのお役に立てて嬉しいのですから!」
一瞬無言になった進一郎さんは、ゆっくりと近づき、私の腕を掴むと自分の胸に抱き寄せたのだ。
心臓が一気に大きく飛び跳ねたが、進一郎さんの体温が心地よく安心できる。
「梨沙、…これからずっとずっと、断られても僕は梨沙を守るために傍にいるから…梨沙のためなら命も惜しくない。」
進一郎さんからのこれ以上ない嬉しい言葉だ。
しかし、恥ずかしくて進一郎さんの顔を見ることができない。
私は進一郎さんの胸に顔を埋めたまま話をした。
「私もずっとずっと進一郎さんの傍にいたいです。」
すると、進一郎さんは私の顎を優しく引き上げると、額、頬、そして唇に口づけた。
触れるだけの優しい口づけだ。
「梨沙…愛している。」
進一郎さんは、もう一度唇に口づけをした。
そして、今度は触れるだけのキスではなく、私の中を優しく探るように深い口づけだ。
初めは戸惑ったが、その口づけからは進一郎さんの気持ちが伝わってくるようで嬉しかった。
なんだか頭がくらくらしてくる。
少しして、ゆっくりと唇を離す進一郎さんに、離れたくないと思ってしまう自分がいた。
「梨沙、…そんなに僕を煽るような顔をしないでくれ…我慢できずに押し倒してしまいそうになる。」
「わ…私…そんな顔していましたか!」
進一郎さんは、真っ赤になった私をクスクスと笑いながら優しく頬に触れた。
「すぐにでも僕のものにしたいけど、今はまだ傷も完治していないし…無理はさせないから安心して…さぁ、冷めないうちに食べようか…まずはワインで乾杯だね。」
進一郎さんの言葉になぜか残念に思う自分がいた。
そんな自分が恥ずかしくなりフルフルと顔を左右に振った。
「梨沙、…どうしたの?」
進一郎さんは少し怪訝な表情をしたが、どうやら気が付いていないようで良かったと胸をなでおろす。