御曹司様はあなたをずっと見ていました。
進一郎さんは私の左手をしっかりと自分の右手で握ると、私をゆっくり立ち上がらせた。
「さあ、梨沙。お婆様が待っているよ…行こう。」
「…はい。」
病院の最上階には、必要以上に大きな会議室がある。
今日はそこを結婚式の会場としていた。
そのため、昨夜から仮ではあるが教会に模した内装にするための突貫工事が行われていた。
しかも、本物の神父様が近くの教会から来てくれているのだ。
この神父様も以前にこの病院で命を助けられたことがあり、病院からの依頼には快く応じてくれたそうだ。
進一郎さんの腕につかまり、会場のドアを開けると一番前に居たのがお婆ちゃんだった。
お婆ちゃんは車椅子に乗っていたが、今日は綺麗な水色のワンピースを着ており、胸には花のコサージュを付けていた。
お婆ちゃんは私の顔を見ると、溶けてしまいそうな表情になり、目元には涙が一瞬で溢れてくる。
「まぁ…梨沙。…なんて綺麗なのかしら…お婆ちゃん嬉しくて…もう思い残すことは無いわ。」
「お婆ちゃん。ありがとう…でも、思い残すことないなんて…まだまだ元気でいてね。」
お婆ちゃんはコクコクと頷いて、一緒に来ていた看護師から手渡されたハンカチで涙を拭った。
車椅子に乗ったお婆ちゃんは、とても細く小さく感じた。
お婆ちゃんに花嫁姿を見せることが出来たのは、進一郎さんのお陰だ。
進一郎さんの顔をそっと見上げると、優しく微笑んで頷いてくれた。
そして、さらに会場の中に進むと、そこには進一郎さんのご両親の姿があったのだ。
私はその姿を見た途端に体に力が入り、掴んでいた進一郎さんの腕を無意識でぎゅっと握ったようだ。
「…梨沙、大丈夫だよ。父も母も君を認めているよ。…僕のために体を張って助けてくれたんだ。むしろ梨沙に感謝しているよ。」
「ほ…本当…ですか?」
進一郎さんは笑顔で頷くと、両親のもとへ近づいた。
先に声を出したのは、進一郎さんのお父様だった。
「…梨沙さん。先日は進一郎が刺されそうになった時、庇ってくれたそうだね…ありがとう。それに…君は会社も救ってくれたんだ、感謝している。この通りだ。」
なんとお父様は私の前で頭を下げたのだった。
さらに驚いたのは、お母様も感謝を口にしたのだ。
「あなたは進一郎の命の恩人だわ…あなたには進一郎を任せられそうね。」
私は二人の言葉を聞いて、言葉に出来ないような感情が込み上げて、自分でも驚くほどに涙が流れたのだった。
周りの目も忘れて私は声を出して泣いてしまったのだ。
そんな私を進一郎さんは胸に抱きしめて頭を優しく撫でてくれた。
「梨沙…もう泣かないで。父さんも母さんも本当に感謝しているんだ。僕を守ってくれてありがとう…これからは僕が必ず梨沙を守るからね。」
その後、神父様の前での誓い。
細谷さんや赤沢さん、裕子からのお祝いの言葉
そして、そこには真紀ちゃんや京香の姿もあったのだ。
皆が笑顔で祝福してくれている。
私はあまりの嬉しさや感動で頭がぼーっとしてしまい、式が終わってもよく覚えていなくくらいだった。