消えた影
「あっつ~!もうダメ。死にそう……」


熱中症寸前で玄関を開けるなり、心愛はげんなりとしていた。

家の中は外よりいくらかマシだが、対して涼しくない。

こういう半端に冷房が効いている所に入ると、何故だかかえって汗が噴き出してくるものだ。

どうせ出かけるなら、ギンギンに効かないとダメなのだ。

セーラー服内の不快指数は、グングンと上昇していく。


「も~っ!暑いってのに!」


本間家の留守を守っていた居候が気を利かせたのか、クーラーを「地球に優しい温度」にセットしているらしい。


(全くもう!変なところで律儀なんだから!こりゃやっぱし、身体の内側から冷やすしかないわね)


生ぬるい空気に満ちたリビングを突っ切って、台所へ直行する。

人間、汗をかけば喉が乾く。

冷たい麦茶でもゴクゴクと飲み干したいところだが、今日の彼女にはもっといいものがあった。


とっておきのアイスクリームがあるのだ。

大事に残しておいたお中元のカップアイス!

ひんやり冷たい高級バニラが!


「みんなはもう食べちゃったけど、こんなこともあろうかとあたしは自分の分取っといたのよね~♪」


この灼熱地獄に食べてこそ価値がある。

その一心で、下校途中のジュースの自販機にも「カキ氷」の看板にも冷房効かせすぎのコンビニにも引っかからず、真っ直ぐ家まで辿り着いたのだ。


「バ~ニラ~バ~ニラっと」


フフ~ンと鼻歌混じりに、大容量の冷蔵庫を開ける。

火照った頬に冷気が心地いい。


心愛は冷凍コロッケとビーフシチューの隙間へ手を伸ばした。

だが……。


「あれ?」


手応えがない。

確かここに隠しておいたのに……!?
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