消えた影
 少し時間は戻って。

「全く何が少年探偵団だ。我々は正規の軍隊だぞ!」

 ガブラは一人本間家の庭に張ったテントで、不満をぶちまけていた。

 野戦用のテントの中にはいかにも彼らしい風情で、室内にも必要最低限のものしか無い。例えば武器とか弾薬、さらには手入れする道具とか……。

 日陰に張ったテントとはいえ、相当な暑さだ。だがジャングル戦を得意とする彼は、このくらい平気なのだ。

「心愛まで巻き込むわけにはいかないからな。肝心な時に飛び出して、こっそり阻止しなければ……」

 武器の整備を終えてブツブツ言いながら、相棒に昼食をご馳走しようとしていた。といっても、猫専用レーションのフタを銃剣で開けただけだが。

「にゃ〜」

 匂いに釣られて、可愛らしい白い子猫がテントの入り口から顔を覗かせる。とある雨の日に出会って以来、テントに出入りするようになった小さな相棒だ。

 彼女が親しげに身体をすりすりと擦り付けてくると、毛皮の暑苦しさにも関わらず目の中が緩む。

「媚びることはない。これは友情の証だ。食える時に食っておけ」
「にゃ……」

 ちょっとすまなそうな仕草をしたが、テントの入り口を見やる。同じくらいの大きさのトラ猫が用事深けに中を覗き込んだ。

「なんだ、友達でも連れてきたのか?」
「にゃ〜ん」
「かまわん。わけてやれ」

 彼の言葉を待っていたかのように、やせ細ったお腹をしたトラ猫が駆け寄ってくる。二匹の子猫は仲良く食べ始めた。

「お前の恋人か?」
「にゃにゃ!」

 違う違うとでも言いたげに、白猫が顔を上げ鳴いた。言葉が通じないので、それ以上のことは告げられないが。トラ猫の方はそれどころではなく、一心不乱に食べ続けた。

「やれやれ。もう一つ開けてやるか」

 奥にある木箱を探るため、猫たちに背を向ける。彼の背中には妙なものがついていた。常に肩から斜めに下げているベルトに、不自然な角度でベタッとワッペンがついている。そして、居間から珍妙な団歌が流れ出したのはまさにその時だった。
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