ずっと、好きなんだよ。
どのくらい時間が経っただろう。


満腹だったこともあって目を閉じたらすぐに眠ってしまったような気がする。


まだ朽木はいるのか?


だが、気配を感じない。


さすがに帰ったか。


聴きたいこと、


言いたいこと、


まだあって、


オレは今...確かめなきゃならないこともあるから。


だから...



「ん?あれ?起きた?」



朽木の声が聞こえた気がしてオレは慌てて寝てるふりをした。


いや、このタイミングで起きれば良かったのだが、まだ少し勇気が足りなかった。



「気のせいか」



ふわっと朽木の香りが近づいた。


たぶん...すごく近い。


何をしているのだろうと今すぐ目を開けて確かめたくなるがぐっと堪える。


ぽんっと少し冷たい手のひらがオレのおでこに乗るのが分かった。



「良かった。熱下がったみたい」



ベッドが軋む音がする。


オレの手のひらにあの温もりが重なって胸がドクンと跳ねた。



「今なら、いいよね?」



良いわけない。


オレがばっちり聴いてしまっている。


だが、本人はオレの演技に気づくことなく続けた。



「ほんとはね...来たくなかったんだよ。会っても気まずいだけだから。そう、思ってた」



まぁ、オレもそうだった。



「けど、やっぱり心配で。こんなことで死ぬ人じゃないって分かってても死んじゃうんじゃないかって思うと怖くて。だから、今までのこと全部忘れてなるべく自然にって思って頑張った。まぁまぁだったかな?」



オレも朽木もまぁまぁだった。


お互い気遣って...。


何回も思う。


オレ達、似てるんだよな。



「私...決めたんだ。隣にいられなくても、私は1番に玲音くんの幸せを祈るって。だから、これで...最後。ほんとのほんとで、最後にする。遠くにいても願ってるから。誰よりも強く願ってる。だから、幸せになってね。玲音くん...」



そのまま朽木は眠りについた。


オレの右手は温かいままだ。


...離したくなかった。


朽木は最後と言った。


きっとこれきりまたオレの前から姿を消すつもりなのだろう。


それで、おしまい。


オレは本当にそれでいいのか。


朽木が灯してくれたこの淡く温かい光の正体を見てみぬふりをするのか。


それがオレのしたいことか。


それじゃまた中途半端な生き方をして、光を消してしまうことになるんじゃないのか。


オレは...


オレは...どうしたいんだ?






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