ずっと、好きなんだよ。
ヒューっと風が吹く。


思わず、さぶっと声が漏れてしまう。


見えて来た、隙間風に悩まされるアパート。


駆け足で近づく。


帰宅ルーティンで郵便受けを確認する。


おひさまーとや宅配ピザのチラシに紛れてクリスマスのおもちゃのチラシを発見した。


こんな小さくてボロいアパートに親子で住んでいる人がいるわけがないのに、こんなものを入れられても困る。


私には一生ご縁のない話だし。


それらをまとめて共用のゴミ箱に捨てようとして、私は見つけてしまった。



「あっ…」



私の手の中には招待状があった。


人生で初めてもらった。


誠に勝手ながら由紀ちゃんからのが最初で最後になると思っていたのに。


あ、でも...。


まぁでも、来ても行かない、か。


私にはその選択肢しかない。


だけど、これはグレーゾーン。


だって、美玲さんからのだから。


夏頃散々お世話になったというのに最近は一定の距離を取っている。


美玲さんとのメッセージのやり取りは月に数回程度で夏祭り以降全く会ってもいない。


だって、美玲さんと繋がっているということは彼とも細く弱くではあっても繋がっているということ。


余計なことを言ったりしたりしたらまた絡めてしまう。


複雑にぐっちゃぐちゃにするのが得意な私ならやりかねない。



「どうしよう...」



家の中に入り、荷物を置くとこたつのスイッチをオンにして潜り込んだ。


招待状を見直す。


日程は3月20日。


春、かぁ。


春になれば今よりももっと忘れていられるかな。


この気持ちも、


忘れようと言い聞かせる自分自身も、


忘れようと必死になって身に付けている忘れ方も、


全部全部忘れていられれば...


そして会ってもただの知人を貫いて


平気な顔していられるほど強靭なメンタルになっていられれば...


行けるかもしれない。


というより、行くしかない。


美玲さんの人生で一番の晴れ舞台を見逃すなんて出来ない。


それまでに私は...


忘れる。


あれから3ヶ月そうしてきたみたいに。

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