ずっと、好きなんだよ。
ーーぴろりろりろりろん...。


今の心理状態でこの快活な音はさすがに不謹慎だと思う。


呼び出されたのは由紀ちゃん達が通う美豊大最寄駅の隣の駅にあるファミレスだった。


学生でもない私がこの駅に降り立つことなど私の人生においてあり得ないと思っていたのに、まさかこんな日に限って起こってしまうとは。


やはり神様を恨むしかない。


私は奥から出て来た店員さんに連れがいて...と言うと名前を確認された。


店員さんに続き、そこへと近づいていく。


一体いつぶりだろう。


あ、あの日か...。


8月25日、


夏祭りの日、


そして


彼の...誕生日。


私が倒れて助けてもらったあの日以来だ...。


ぼんやりと彼女の顔を思い出していたら到着してしまった。


大学の課題でもやっていたのか、机にはパソコンが置かれていて彼女はそれと睨めっこしていた。


顔を伏せていても雰囲気で分かる。


私の人生において、ヒロインと呼ぶのが相応しいと感じたのは昔も今も彼女だけだ。


彼女がこちらの気配に気がついて顔を上げる。


目が合うと私に向かって目を細め、頬を緩ませた。


やはりヒロインは...この子だ。



「久しぶり、朽木さん」



いつまでも他人行儀だ。


目に見えない壁を感じる。


同じ名を持つ彼女とは、


きっといつだって交わらない。


精一杯の笑みを浮かべて私は言った。



「お久しぶりです、栄木夏音さん」
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