ずっと、好きなんだよ。
店長の足が止まった。


どうしたんだろうと視線を向けると、はっきりと交わった。


慌てて反らすと、腰にかかっていた力が強くなり、そのまま引きずり込まれた。


苦しくて


呼吸が


出来ない。



「奈和ちゃんの心がまだ彼にあろうと何だろうと関係ない。俺は...奈和ちゃんのことが好きだ」



......。


薄々気づいていた。


でも、そうじゃないって思い込みたい気持ちが勝って、いっつも逃げていた。



「俺が奈和ちゃんを必ず幸せにする。彼には出来なかったことを俺は必ず成し遂げる。だから、俺と...付き合って下さい」



逃げて逃げて逃げて...。


たぶん人よりたくさんのものから目を反らして来た。


踏み込めば変わる。


変わろうとすれば変わる。


他の何かが埋めてくれれば変わる。


そう思って片足をかけたこともなくはない。


......けど、


だけど、ね。


......違う。


分かってる。


私の隣で彼が笑ってくれることはない。


諦めてる。


でも、だからって、その埋め合わせで店長を...柏木さんを選ぶのは違う。


彼の代わりは、いない。


まだ...いないんだ。


私は右手でとんっと胸を叩いた。


店長の体温が離れていく。



「ごめんなさい...」


「そっか...。分かった」



いつも覇気のある店長の、


私の前を行き、常に道を示してくれた柏木先輩の、


こんなにも曇った顔を初めて見た。


それを生み出してしまったのは、私。


本当に、ごめんなさい。


でも、嘘はつきたくないから。


もう、2度と。


自分に嘘はつきたくないんだ。


過ちを繰り返したくないんだ。

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