ずっと、好きなんだよ。
母さんとアネキに悟られぬよう、駅前のコーヒーショップで時間を潰し、オレは定刻通り自宅に戻った。


作り笑いを浮かべ、なんとか元気を取り繕い、オレはドアノブを回した。



「ただいま」


「お帰り、れお~。あたしの可愛い可愛い弟よ~聞いておくれよ~」


「は?何?」



いつもわりとテンションが高めのアネキだが、今日は異常だ。


正直このまま付き合っていたら氷点下のオレが溶けてなくなりそうだ。


オレにはお構いなしにアネキは続ける。



「あのね、あたしね...結婚するの」


「いや、それこの前聞いたけど」



アネキがぶんぶんと激しく首を真横に振る。



「結婚相手、変わりました。あたし、世界でいっちばん大切な人を思い出したの。あたし、その人と運命的に再会してさっきプロポーズされた。だから、もう迷わない。あたしは桜坂響と結婚するっ!」



ーーバタンッ。



アネキは叫ぶだけ叫ぶと冷たい床に倒れ込むように眠りについた。


床の方が涼しいと言ってベッドに行かずによく家中に転がっているのでオレは運びもしない。


完全にスルーして母さんの元へ向かう。



「ただいま。アネキ、ずっとあんな感じ?」



母さんはくすっと笑いながらうんうんと頷いた。



「母さんの言った通りだったな。アネキの1番は別にいたんだな」


「ほんと、素直じゃないわよね。自分の気持ちを無視して突っ走ったって、ただ自分が傷ついて後から後悔するだけなのに。まぁ、美玲も今回の一件で懲りたでしょう。これからは本当の意味で美玲らしく生きられると思うわ」


「そう、だな...」



新しくアネキの婚約者になった桜坂さんはオレが帰ってくるちょっと前にわざわざ挨拶に来たらしい。


好意的に思っていたその彼に会えたのもあって母さんも嬉しかったのだろう。


頬がいつもよりほんのり赤く染まっていた。


そんなよき日にオレの爆弾を投下するわけにはいかない。


オレは冷蔵庫から麦茶を出してごくごくとコップ一杯飲み干すと、すぐさま自室に戻った。


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