ずっと、好きなんだよ。
「おーい、奈和ちゃん」



せんぱ...店長に肩を叩かれてやっと気がついた。


また物思いに耽っていたようだ。


いけない、いけない。


早くここを抜けて


彼女のところに行かねば。



「あの、1ついいですか?」


「何?」



はっきり二重の、私より明らかに透き通っている漆黒の瞳が私を映す。


どうしてこんなにも真っ直ぐ見つめてくるんだろう。


私なんて、


所詮外れくじなのに。



「奈和ちゃん呼び止めてくださいって前にも言いましたよね?今の時代、男性も女性も"さん"付けで統一しないと色々面倒だってこと、知らないんですか?」



ふふっと、彼は笑みを浮かべた。


面白がられる。


からかわれる。


分かってるけど、


これだけは言っておかなきゃならない。


だって、


周りの人に変な誤解されたくないから。



「もちろん分かってるよ。分かってて...呼んでる。だって、奈和ちゃんは...」



大きな手のひらが私の頭にぽんっと乗せられた。


一瞬とくんと胸が鳴ったのは気の迷いってことにしておこう。



「可愛い後輩だから」


「...可愛くないです」


「自分を否定しない。そういうとこ、奈和ちゃんの悪い癖だよ。仕事は丁寧だしミスも少ない。ちょっと無愛想なところもあるけどある意味取り柄だと思ってるし。これからもよろしく頼むよって言いたかっただけ。なのに逃げられてこっちとしてはいい迷惑だよ」


「私に逃げられたくなければ"朽木さん"って呼んでください。奈和ちゃんって呼ばれ方、ちょっと...トラウマ...なんで」


「トラウマ?」


「それ以上追及しないで下さい。本当に時間無いので私帰ります。明日もよろしくお願いします。では、お先に失礼します」



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