ずっと、好きなんだよ。
私は最低限必要なものだけバッグに積めて家を飛び出した。


宮森から電車で8駅先の最寄駅まで行き、駅隣接のスーパーで食料を調達し、ドラッグストアで予備の風邪薬と熱冷ましシートを買うと、最大限ダッシュした。


すれ違ったカップルには笑われた。


変な顔して走っていることくらい自分でも分かってる。


でも今はそんなのどうでもいい。


一刻も早く行くしかないんだから。


息も絶え絶えの中、私は小走りと早歩きを交互に繰り返し、道に迷うことなくたどり着いた。


スマホの画面を見てアパートの名前と部屋番号をもう1度確認する。


階段を上り、2階の角部屋に向かう。


ここ、か。


ふ~っ。


なんか緊張する。


この前はほんの一瞬しか同じ空間にいなかったけど、今回は...長い。


色んな意味で持つかな?


大丈夫、かな?


途端に逃げ出したくなる。


インターホンを押す手が震える。


人差し指が一生届かなければなんて思ってしまう。


でもそれじゃ、ダメだから


来た意味がないから


覚悟を決め、


押した。



ーーピンポーン!



この緊張感には似つかわしくない明る過ぎる音だ。


はぁはぁはぁ...。


走ってきた直後より心臓が苦しい。


痛い。


うぅ...早くしてくれ。


と、思ったその時。



ーーガチャ。



ギーッと鈍い音がして扉が開き、


その向こうから


彼が現れた。


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