【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
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小坂と別れて自宅に着いたのは、10時を回った頃だった。
親御さんがコンビニに着くまで一緒に待つと言ったけれど、小坂は頑なに拒んだ。
それに対して俺は深く踏み込んだりはしなかった。
俺が自分の家族とうまくいっていないように、だれにでも複雑で打ち明けにくい事情のひとつやふたつはあるだろう。
小坂の心の中に土足で入るようなことはしたくない。
俺はシャワーを浴びて自室に戻ると机に座り、この前配られた進路希望調査票を見つめていた。
今、たしかに胸の中にある小さな息吹を見逃すことはできなかった。
……俺は、サッカーに携わる仕事がしたい。
難しいとはわかっているけれど、コーチライセンスをとるのだ。
未来ある若者たちに俺の経験や技術を伝え、選手育成の力に微力でもなれたら。
小坂と一緒にいる間に、そんな願望が生まれていたのだ。
まっくらな闇の中に立ち尽くしていたけれど、今ならたしかに光が見える。
か細くて、ふうっと大きく息を吹きかけたら消えてしまいそうな脆い光。
でもたしかに俺の胸の中にある。
俺はその光に手を伸ばすように、ゆっくりと、そしてたしかに歩み始めた。