【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
◇ さかさま
「じゃあ、ばっさりいっちゃっていっていいですか?」
鏡越しに男性の美容師が手慣れた様子で問うてくる。
朝から俺は隣駅の美容院に来ていた。
本当は家の近くの美容院に行きたかったのだけれど、日曜日ということもあり、ネットでの事前予約で今日の枠はすべて満員だったのだ。
少し値が張るけれど仕方ない。
今日中にどうしても髪を整えたかったのだ。
なぜなら今日の午後、小坂に会うから。
小坂に少しでも相応しい姿になりたかった。
怪我をしてから身だしなみに気をつける余裕もなく、襟足は肩くらいまで伸びきっていた。
「はい」
俺は固い意志と共に頷いたのだった。
そして20分後。
美容院を出た俺は、軽くなった後頭部をかきながら駅までの道を歩いていた。
頭がすーすーして、この感覚がまだ慣れない。