【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
*
映画館に着き、チケットを買ってシアターに入れば、座席はもうほとんど埋まっていた。
購入した俺たちの席は、中央ブロックの右端だ。
席に着いたところで、まわりの人たちがキャラメルポップコーンを食べていることに気づく。
「そういや、なにも買ってこなかったな。ほしいのはないか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
それから間も無く予告が始まり、シアター内の照明が消えた。
映画が始まる合図に、ざわざわしていた周囲がしんと静まり返る。
物語は少女と柴犬の100日の軌跡の物語だ。
物語の終盤、切ない場面が訪れると、啜り泣くような声があちこちから聞こえてきた。
ふと隣に視線をやれば、スクリーンに映し出された映像の光に照らされる、小坂の横顔があった。
小坂は静かに涙を流しながら下唇を噛みしめている。
俺もこのシーンを観た時、涙をこらえることができなかった。
けれど今は正直、まったく物語に入り込むことができない。
近くて触れそうな手。
そしてこれからするつもりの告白ばかりを意識してしまって、気もそぞろになってしまう。
身を入れることのできないまま物語は終了した。
壮大なバラードをバックに、エンドロールが流れていく。
すんすんと鼻をすする音があちこちから聞こえる中、俺たちはシアターを出た。