【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ




映画館に着き、チケットを買ってシアターに入れば、座席はもうほとんど埋まっていた。


購入した俺たちの席は、中央ブロックの右端だ。


席に着いたところで、まわりの人たちがキャラメルポップコーンを食べていることに気づく。


「そういや、なにも買ってこなかったな。ほしいのはないか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」


それから間も無く予告が始まり、シアター内の照明が消えた。

映画が始まる合図に、ざわざわしていた周囲がしんと静まり返る。


物語は少女と柴犬の100日の軌跡の物語だ。


物語の終盤、切ない場面が訪れると、啜り泣くような声があちこちから聞こえてきた。


ふと隣に視線をやれば、スクリーンに映し出された映像の光に照らされる、小坂の横顔があった。

小坂は静かに涙を流しながら下唇を噛みしめている。


俺もこのシーンを観た時、涙をこらえることができなかった。


けれど今は正直、まったく物語に入り込むことができない。

近くて触れそうな手。

そしてこれからするつもりの告白ばかりを意識してしまって、気もそぞろになってしまう。


身を入れることのできないまま物語は終了した。

壮大なバラードをバックに、エンドロールが流れていく。

すんすんと鼻をすする音があちこちから聞こえる中、俺たちはシアターを出た。





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