【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

「榊くん?」


そうしているうちに、俺の異変を感じとったらしい。

小坂がポチも顔負けのきゅるきゅるな黒目で俺の顔を覗き込んできた。


「どうかした? 元気ない?」


……まずい。小坂に心配させてしまうなんて誤算だ。


「いや、」


心の中で自分を叱責し、小坂に向き合う。


青々とした並木道の下、今ここにいるのは俺たちだけ。

……今しかない。


俺は小坂を呼び止めた。


「小坂」


俺が立ち止まったことに気づかず数歩先を行っていた小坂が、俺の呼びかけに振り返る。

小首を傾げるその仕草が可愛い。


彼女は天から間違って落ちてきてしまったんじゃないかと、そんな柄にもないことを頭の片隅で考えてしまう時がある。


「なに?」


唇の両端を持ち上げ、小坂が返事をしてくれる。

その瞳に映っていることがどれほど幸せなことなのか、こんな時にひどく痛感してしまう。


「実は小坂に渡したいものがあって」

「え? 私に?」

「昨日のお返し」


そう言って、ズボンのポケットから紙包みを取り出す。


「大したものじゃないんだけど」

「うそ……。とっても嬉しい……」


感激屋の小坂は、目をうるうるさせながら小さな紙包みを受け取る。

そして包みの中からバレッタを取り出した小坂は、はっと息をのんで口元に手を当てた。
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