【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

その時、きつく閉じられていた記憶の蓋が開いた音が聞こえた。


感情が爆発し、唇が震える。

意図するより先に堰を切ったように涙が溢れ出し、嗚咽が止まらなくなって口を手で押さえる。


「あ……ああ……っ」


一瞬にして目まぐるしく沸き起こるたくさんの記憶。

なにより大切で愛おしい記憶。


「さゆ……」


全部思い出した。


小坂――紗友が俺のたったひとりの幼なじみであることを。

そして紗友が、あの冬の日の事故で亡くなったということを。


いても立ってもいられなくて俺は部屋を飛び出ていた。

そして紗友の家に向かって、わき目も降らず走る。


どうしてこんなにも大切な記憶を忘れていたのだろう。


雪が舞う道を走りながら走馬灯のように甦るのは、事故に遭ったあの冬の日の朝の記憶。

あの日も雪が降っていた――。
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