【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ




明日の希望を教えてくれた君には明日がなかったなんて――。


だれに導かれもせず家までの道がわかってしまうのは、これが初めてではないなによりの証拠。


家の前に、その姿はあった。

嬉しそうに、時々目を細めながら空を見上げていた紗友が、俺に気づいて笑む。


「榊くん、すごいよ。7月なのに雪が降るなんて」


一気に胸の奥底から込み上げてくる感情を、もう抱えきれなかった。

たしかにずっと胸の底にあったのに見えなくなっていた、愛おしいという感情を。


「……紗友」


その呼び名が大気を震わせた瞬間、紗友の瞳がさざ波が立つように揺れたのを見逃さなかった。


俺は歩み寄り、そして小さなその肩を抱きしめた。


紗友が耳元で張りつめた空気をはっと吸い、それから覚悟を決めるようにゆっくり息と共に凪いだ声を吐き出す。


「思い出したんだね。私のことなんて、思い出さなくてよかったのに」

「ごめん。ごめん……」


止まったはずの涙が、落ち着いたはずの涙腺が、紗友の温もりに刺激され再び緩む。


胸が軋むような後悔に苛まれる。

きっと何度謝っても足りない。


俺を落ち着かせるように、紗友が穏やかな声を紡いだ。


「話すね、全部。ちょっと歩こっか」





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