【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

いや、数秒かかっても、かみ砕き理解するまでには至らなかったかもしれない。


頭を後ろから殴られたような衝撃が走る。

急激なめまいに襲われて、今自分がまっすぐ立っているかもわからなくなった。


「6日前川に飛び込んだ時から、ずっと夢の中なんだよ。あの時、悠心は本当は助からなかった。悠心の本当の体は今も意識を失って、病院で治療を受けながら眠り続けてる」


しんしんと降り続ける白銀の雪が、紗友の頭の上にもふわりと落ちる。

雪が降っているのに、なぜかちっとも寒くない。


「私は悠心を助けたかった。だから悠心の夢の中に入り込んで、君に出会ったんだよ。生きることは難しいけど、美しくて幸せなことでもあるって、この7日間で悠心に知ってほしかったの。昏睡状態から目覚めるためには、悠心の生命力が必要だった……。だからもう一度生きてみようって思ってもらえるように」


にわかには信じられない話だった。

今この時こそ夢の中だとけりをつける方が、よっぽど楽だ。

けれど。


「なんて……、こんな話突然聞かされたって信じられないよね」


ふっと嘲笑を浮かべた紗友を一蹴することなんてできなかった。


「うそ……じゃないんだな」


紗友はたまに嘘をつく。

けれどそれはきまって俺を喜ばせる時だけ。

俺を困らせるような嘘を紗友がつくはずがないことを知っている。


なにより紗友の瞳が、すべて真実なのだと証明していた。


川に落ちたあの時、どこかから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

あれはきっと紗友の声だったのだ。
< 128 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop