【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
◇ たまゆら
朝早く、まだ空が白む頃、俺は紗友の家のチャイムを鳴らした。
ドアの向こうから姿を現したのは紗友。
お互い、言葉は出なかった。
ほんの少しの間があって、ぎこちなくも“いつも”を演じて笑みを作る。
すぐそばで頭をもたげている“さよなら”から、目を背けるようにして。
「おはよ、紗友」
「おはよう、悠心」
――ついに、別れの朝がやってきた。
昔ふたりで映画館に観に行った映画のDVDを、ソファーに並んで観た。
映画はもちろん面白かったけど、紗友の横顔が綺麗すぎて7割は集中できなかった。
昼食の買い出しにスーパーに出掛けた。
ふたりで手を繋ぎながら買い出しをしていると、まるで新婚さんのようで少しこそばゆくなった。
ふたりキッチンに並んで、あの日作れなかったクラムチャウダーを作り、ひとつのテーブルを囲んでできたてのクラムチャウダーを食べた。
初めて食べたクラムチャウダーはとてもおいしかった。
夢中で食べる俺を見て、紗友はくすくす笑っていた。
俺たちは、まるでごく普通の土日を切り取ったような、そんな一日を過ごした。