【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
「名残惜しいけど、私も悠心も、もう行かなきゃだね」
覚悟を決めた紗友の声に、俺は情けなくも返事をすることができない。
思わず引き留めてしまいたくなった。
……けれど、それはできないことだから。
「頑張りすぎて無理しちゃだめだよ。風邪引かないようにね。髪乾かさないまま寝ないでね、それから……」
紗友が、なにかに急き立てられるように言葉を並べていく。
俺は落ち着かせるように、紗友の頭に手を置いた。
「大丈夫だ、ちゃんと聞いてる」
俺たちの間に一瞬の静寂が降り立ったその途端、紗友の大きな瞳がじわじわと熱と潤みを帯びていく。
まるで泣き出す寸前の子どものように。
たまらなくなって、俺はそっと腕の中に紗友を閉じ込める。
抱えきれないほどの愛おしさが、蓋をした胸の中から溢れてしまいそうになる。
込み上げてくる涙の予感に溺れそうになった。
「ごめん。私、涙脆くて……」
涙声でそう言って、身を引こうとする紗友。
けれど腕の力を緩めることなんてできなかった。
「まだ離れんな」
紗友の温もりを感じて、まだ紗友がここにいることを実感したかった。
どうにか繋ぎ止めたくて、必死に紗友の体をかき抱く。
俺の肩に口を埋めた紗友が微笑んだのが、微動で伝わってくる。
「ふふ、苦しいよ」