【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ

「名残惜しいけど、私も悠心も、もう行かなきゃだね」


覚悟を決めた紗友の声に、俺は情けなくも返事をすることができない。


思わず引き留めてしまいたくなった。

……けれど、それはできないことだから。


「頑張りすぎて無理しちゃだめだよ。風邪引かないようにね。髪乾かさないまま寝ないでね、それから……」


紗友が、なにかに急き立てられるように言葉を並べていく。


俺は落ち着かせるように、紗友の頭に手を置いた。


「大丈夫だ、ちゃんと聞いてる」


俺たちの間に一瞬の静寂が降り立ったその途端、紗友の大きな瞳がじわじわと熱と潤みを帯びていく。

まるで泣き出す寸前の子どものように。


たまらなくなって、俺はそっと腕の中に紗友を閉じ込める。


抱えきれないほどの愛おしさが、蓋をした胸の中から溢れてしまいそうになる。

込み上げてくる涙の予感に溺れそうになった。


「ごめん。私、涙脆くて……」


涙声でそう言って、身を引こうとする紗友。

けれど腕の力を緩めることなんてできなかった。


「まだ離れんな」


紗友の温もりを感じて、まだ紗友がここにいることを実感したかった。

どうにか繋ぎ止めたくて、必死に紗友の体をかき抱く。


俺の肩に口を埋めた紗友が微笑んだのが、微動で伝わってくる。


「ふふ、苦しいよ」
< 148 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop