【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
◆ 〝 〟
子どもの頃絵に描いたようなもくもくとした白い雲間から太陽が覗いている。
疑いようのないほどの快晴の日、俺は退院した。
回復は医者も目を見張るほどの脅威のスピードだったらしく、当初の予定よりも2週間も早く退院することができた。
病院を出た俺は、大荷物を家に持ち帰り、それからすぐに家を出発した。
おちおちゆっくりもしていられない。
俺にはある目的があった。
かんかんに照りつける元気な太陽の下では、入院中ほとんど寝たきりで動いていなかったせいか、少し歩いただけで疲れが溜まってくる。
けれど目的地へは、そう遠く離れていない。
目的地――それは紗友の家だ。
紗友が亡くなってから、俺は紗友の家に訪れることも、線香をあげることもできていなかった。
15分ほど歩いて紗友の家が見えてくると、俺は居住まいを正し、汗を拭う。
戸建てのその家が記憶よりも小さく感じるのは多分、1年の間に俺の視線の高さが変わったからだ。
門扉を開けると、記憶の中ではカラフルだった庭が殺風景になっていることに気づく。
玄関まで続く石畳のまわりに並んで咲いていた色とりどりの花は、もうどこにも見当たらない。