【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
家の中は、記憶のままだった。
廊下を進み、無駄なものがなく閑散としたリビングに通される。
拓けた視界の中で、俺の視線はなにより先にそれを捕らえた。
……見つけたくなんてなかった。
それなのに、真っ先に目に飛び込んできてしまうのはなんでだろう。
この目で見るまでは、まだ無理やりにでも逃げ道が作れたかもしれない。
けれど、もう――。
無意識のうちに大きく息を吸い、まっすぐ立っていられるように足の裏に力を込めて踏ん張っていることしかできなかった。
視線の先には木製の仏壇があり、そこには額縁の中で笑う紗友がいた。
紗友はもうこの世にいない。
写真という無機質な四角い世界の中でしか存在しない。
視覚として事実を突きつけられて、覚悟はしていたはずなのに果てしないショックに襲われる。
「お線香、あげてもいいですか」
支えを失ったように、情けなくも声が震えてしまう。
「ええ、もちろん。ありがとう」
おばさんの了承を得ると、こぢんまりとした仏壇の前に正座し、線香に火をつける。
りんを鳴らし手を合わせれば、北風が吹きすさぶ心がようやく少しずつ落ち着きを取り戻す。
……紗友、やっと来られたよ。
来るの遅くなって、ごめんな。
心の中でそっと語りかけても、もちろん返事はない。
どんな些細な声だって拾い上げてくれた紗友は、もういない。