【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
見知らぬ男の罵詈に傷ついたからでも、ノートを落とし汚したことがショックだったからでも、鞄を拾うのが惨めだったからでもない。
こんなのは、ただのきっかけに過ぎない。
表面張力でなんとか保っていた水の入ったビーカーに最後の一滴が落ちて、溢れた。
日々の中で積もりに積もったものが、限界点を超えてついに決壊してしまった。
最後の背中を押すきっかけは、どんなに些細なことでも成り得たのだ、きっと。
「おい、なんとか言えや」
黙ったままでいる俺に、男が食ってかかってくる。
彼にとっては、かっこうのストレスの捌け口を見つけたくらいのことなのだろう。
……だるいな。
今はそのすべてが煩わしくて、のっそり上体を起こして前髪の隙間から男を一瞥する。
すると俺の顔を見た男は、それまでの威勢はどこにいったのか怯んだように視線をふいと逸らし、「わかったならいいんだよ」ともごもご口を動かしながらぎこちない動きで立ち去って行った。
俺の心ぱきりと折るだけ折って男が去り、再び静寂が降り立つと、俺は顎を持ち上げて息を吐き出す。
……ああー、死にたい。
もう、なにもかもがどうでもいい。
もう、なにもかもが面倒だ。
やけくそな感情に心が支配される。