【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
夏の太陽が頭の上で俺たちを見守っている。
中学も高校も徒歩と電車通学だから、自転車を漕ぐのは久々だった。
けれど、こんなに気持ちのいいものだっただろうか。
びゅんびゅんと風を切って走るのは爽快で楽しくもある。
「あー、楽しい。なんか高校生って感じ」
心の声に重なるようにして、背中の方から声が聞こえてきたので、少し驚く。
首をひねると、目を閉じて気持ちよさそうに風を受ける小坂の綺麗な顔があった。
「こういうのが高校生らしいのか?」
「そうだよ。青春っぽくない?」
青春の定義はよくわからないけれど、小坂の言うことはなんとなくわかる気がした。
こんな眩しくて輝かしい思い出は俺の記憶にはないから、小坂の青春のおすそ分けをもらっているのかもしれない。
「こうやって男の子に漕いでもらって、その自転車の荷台に乗るの、ちょっと憧れだったんだよね。中学までは徒歩通学だったから。夢、叶っちゃった」
「夢、ちっちゃいんだな」
「榊くん、私が欲張りだと思ってない?」
「んー……少し。欲張りっていうか、いつもスケールがでかいから」
予想を超えてくる小坂のことだから、夢だってとんでもないスケールのものだと思ってた。
「まぁ、たしかに本当のお願いはとってもとっても大きいものだけどね。それはもう叶ってるから」
小坂は含みのある声音でそう言って、それから声のトーンを持ち上げた。
「でも明日からは徒歩で来ないと。そうしたら榊くんと少しでも長くいられるもんね」
俺の腰にまわした腕にきゅっと力を込め、小坂がそんなことを言う。
なんでそんな台詞を臆面もなく言い切れるんだろう。
言われた俺の方が、どんな顔したらいいかわからなくなってるというのに。
きっとひとつひとつ真に受けていたら、身が持たない。
小坂は相手を喜ばせるのが得意なようだし、ほとんど社交辞令だと思って聞き流すのが得策だと、一日を一緒に過ごしてみて会心していた。