【完】永遠より長い一瞬を輝く君へ
「あ! 榊くん、月が見えるよ」
風に逆らうようにして、後ろから聞こえてきた声が俺の鼓膜を揺らした。
顔をあげれば、たしかに正面の空にぽっかりと浮かぶ白い月を見つける。
「知ってる? 地球と月の距離は38万キロくらいなんだって。飛行機で月まで行くとだいたい28日かかるらしいよ」
その事実にも驚いたけれど、すらすらと知識をなぞる小坂に驚く。
「詳しいんだな」
「月って、なんだか私みたいで親近感を覚えちゃうんだよね。太陽の光を反射しないと輝けない。太陽がないと輝けないの」
しんみりとした声で小坂はそう語るけど、それは違うと思った。
小坂はだれの目から見ても太陽だ。
彼女自身が圧倒的な輝きを持っている。
小坂を前にしたらみな、彼女に惹きつけられるように彼女を中心にして回ることしかできない衛星や恒星のひとつに過ぎない。
けれどそれを口にできなかったのは、小坂の声に真剣な色を掬い取ったから。
「手、届きそうなのにね」
こつんと背中に小坂の額が当たる。
だれかの存在をこんなに近く感じたのは、とても久しぶりのことだった。
……7日間。
7日間だけ、生きてみよう。
俺はふとそう思った。
――こうして、俺と彼女の不思議で奇跡のような7日間は幕を開けた。